Prologue-3
2015年8月、成田空港の近くにある東横INNにて、日中韓三カ国から二百名を超える大学生がここに集い、国際ビジネスコンテストが開催されました。日中韓の学生はそれぞれ均等にグループ分けされ、大会運営側が出したテーマに沿って、一週間ビジネスプランを練り込み、最終日に審査員を前にプレゼンをします。
当時、大学2年生だった自分は、運営事務局のスタッフとして、このコンテストに参加。各グループのディスカッション以外にも、運営事務局のミーティングにも参加し、議論を進めました。このミーティングではお互いの共通言語である英語を用いて、コンテストに関する議題や、団体の運営方針について話し合いますが、それぞれ3カ国の支部の状況に基づきディスカッションを進めるため、時には激しくぶつかり合うこともありました。
しかし、それでもこの議論の根底にあったのはこの「OVAL」という学生団体の名称の由来でもある「Our Vision for Asian Leadership」。和訳すると、「東アジア発のグローバルリーダーの輩出」。ビジネスコンテストという場を用いて、日中韓の学生のために交流の場を設け、「東アジア」という共通項のもと、お互いの文化を理解し、グローバルリーダーの輩出を目指す、というビジョンでした。歴史や政治問題という垣根を超えて、お互いのことを真に理解し合い、自身が生活するこの「東アジア」という地域の発展を支えるグローバルリーダーの育成――それが僕たち「OVAL」という学生団体が思い描いていた理想の社会像でした。
僕自身も、日本生まれ、中国育ち、小学校から大学院まで、日本や中国の友人のみならず、韓国や、モンゴル、北朝鮮の友人も多くいた自分にとって、「東アジア」は地域を表す固有名詞ではなく、いつの間にか自分自身が生活する環境そのものを表す一つの言葉となりました。前述の団体を卒業した学生の多くも、それぞれの国へと留学、もしくは就職し、今でも日中韓の垣根を超えた交流を続けています。
ところが、現実は僕たちが思い描く理想の社会像とは程遠い現状にあります。東アジア諸国、特に日中韓三カ国は歩み寄るどころか、それぞれの二カ国間関係で懸案は山積みされ、その溝は深まるばかり。メディアにおける報道も一辺倒であり、書店で並ぶ書籍の多くも嫌中、嫌韓思想のものが多く、互いの国を真に理解する機会はあまりありません。加えて新型コロナウィルスによって、渡航が制限される中、自身の目を以って物事を確かめることも難しくなり、より三カ国間の分断と対立が進んでいます。
「近くて、遠い国」。文化的にも、地理的にも近い三ヶ国だが、どこか遠い関係にある。まさに今の日中韓三ヶ国の関係性を表すには最適の言葉とも言えるでしょう。しかし、2019年12月、中国で開催された「日中韓ビジネス・サミットにおいて」、安倍元総理は三国志で知られる魏、蜀、呉の“三国”を引き合いに出し、日中韓三ヶ国は“相争う者同士ではなく、共に協力し「新しい三国時代」を築きたい”と話したように、日中韓三ヶ国は相通じるところがたくさんあり、競争関係ではなく、“共創”関係にあると僕は思います。日本の若者の間でも、嫌中や嫌韓思想に流されることなく、政治と個人を切り分けて考える人も増えており、真に中国や韓国、しいては東アジア全体をもっと理解しようと努力する若者もいます。そんな東アジアの未来を背負う若者に一種のガイドブックを提供したいという思いから着想を得て、作り始めたのがこの書籍となります。
それぞれ東アジアの異なる国や地域から参画し、文化や、経済、政治、社会と各々得意とする領域から書き下ろしたこの書籍ですが、その根底にあるものがより良い「東アジアの未来」。「OVAL」のように、歴史や政治問題という垣根を超えて、お互いのことを真に理解し合い、ぶつかり合うことを恐れず、新たな東アジアの未来を僕たちの手で創り上げること。
競争ではなく、共創へ。僕たちの東アジアを。